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2008’11.27・Thu

少しずつの幸せ 2

テニプリ再録。
2話目です。
続きからどうぞ。




いつもはバタバタする英二がなるべくそうっと雪乃を寝台に寝かせる。
そのわずかな動きに痛みが起きる。
心配させちゃいけない。そう思って無理に微笑むと、額をやわらかくて冷たいものがすっと撫でた。
恐る恐る目を開けるとそれは大きな手。

「すごい脂汗だ。無理しなくていいですよ。かなり痛むでしょう?お話できますか?」
「しゅういちろう」
「はい」
「いたいの」
「そうでしょうね。何時からですか?」
「い、いっしゅうかんくらいまえから」
「そんなに?よく我慢できましたね」
「まえから、いの、ちょうし、わるかった、から・・・」
「わかりました。とにかく診させてくださいね」

視線をしっかりと雪乃と合わせながら大石は痛みに気をとられている雪乃の胸元を、
申し訳ない思いで緩めるとそっと聴診器を当てた。
相当激しく痛むのだろうか、鼓動が跳ね上がっている。
英二が抱えているときもその腕の中でうずくまるように腹を抱えていたところを見ると…。

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくださいね」

言うと大石は雪乃のシャツをめくり上げてなるべく刺激を与えないように
優しく右下腹部に手を滑らせた。と手を当てただけなのに雪乃がうめき声を殺すのが分かった。
間違いない。説明もなしにデスクの受話器をとると、大石はいきなり段取りをつけ始めた。

「ええ。虫垂炎です。かなり進んでいるようですので、即オペをしたいのですが。
外科の先生は今…そうですか。はい。助手は僕がします。第二手術室ですね。
分かりました。ではすぐストレッチャーをよこしてください。お願いします」
それを聞いて横で見守っていた英二が騒ぎ始めた。

「虫垂炎って、盲腸なの?ゆきちゃん」
「ああ、そうだ。それもかなり進んでいる。触診の感じからするともう爆発寸前だ。
よく電話してくれたな、英二」

褒められたと気を良くした英二に、だが、と大石は言葉を続けた。

「しょっちゅう一緒にいるのなら、どうしてもっと早く診てもらうようにしなかったんだ?
もう少し早ければここまで苦しまなくて済んだのに」

しゅんとする英二を尻目に、大石はポケットから真っ白いハンカチを取り出すと、
ゆっくりと雪乃の額や頬を拭った。苦しむ雪乃の顔を覗き込むように屈むと、大石は優しく告げた。
「今の電話でお分かりになったかもしれませんが、虫垂炎です。
それもかなり進んでいます。すぐ手術をすることになりましたので、
ご家族か誰かに連絡を取って入院する準備をしてもらったほうがいいでしょう」

医者としてはありふれたことを言っただけなのに、
大石が見つめていた瞳が少し潤み不安に揺れた。
その表情を見て、大石はなんとしてもこの女性を助けたい。
いや、もちろん虫垂炎くらいで死なせたくはないのだが、
護ってやりたい、力になってやりたいと、心の底から思った。

「だれか…ですか」
言うと雪乃はそっと頭を廻らせた。

「オレ?オレここにいるよ?」

英二を探したのか、と大石はなんとなくがっかりした自分に驚いた。
そうか。いつも英二から名前が出ていたのにうっかりしていた。
そういう事だったのかと、勝手に納得しようとして思考を英二にさえぎられた。

「あ、大石。そんな顔して誤解しないで。
オレゆきちゃんとなんでもないからね。今オレとゆきちゃんは仕事のペア。
言うなれば、大石の後釜なんだよ」

それはそれで失礼なと思いつつ、どこかで安堵する自分に大石はまた驚いた。

「いや、そういう事ではなく」
とりあえずごまかす為に雪乃の髪を撫でようとして、
手がすべりそのまま頬を撫でてしまった。その手に雪乃が擦り寄ってくる。
不安で不安でたまらない。気持ちが震える頬から伝わってきて、大石は胸が痛んだ。

「英二が面倒見られるのか?ご家族は?」
「言ってなかったっけ?ゆきちゃん家族いないんだ。
だから大丈夫。オレが面倒見るよ。入院の準備だろう?
要るもの言ってくれたら俺が買いに行くよ。もう家にとりに行くような時間ってないだろ?」

こういうときにはフットワークの軽い英二は本当に頼りになる。
とりあえず最低限必要なものを書き出すと、大石はメモを英二に持たせた。
合点承知!と勢いよく出て行った英二の背中を不安げに見る雪乃を少しでも元気付けたくて、
大石はそばの椅子に座って手を握った。

「もうすぐストレッチャーが来ます。そしたらすぐに入院になります。
オペ室の準備が整い次第手術になりますから、心の準備をしてくださいね」
大石の言葉が聞こえているのかいないのか、雪乃は大石の手を握り返すと、その手に擦り寄った。

「しゅじゅつ、どうしてもしないといけないですか?おくすりでなんとかならないですか?」
「なんとかなる段階はもうとっくに過ぎてしまってるんですよ。
このままだともっと痛くなりますから、ね」

宥めるように言うと、大石は空いているほうの手でそっと雪乃の髪を撫でた。
少し茶色かかった髪がふわりと顔にかかり、汗ばむ顔に張り付く。
それを優しく払いのけながら、大石はやってきたストレッチャーを押す看護士に目配せをした。
雪乃から視線をはずさないままそっと抱き起こすと、看護士がその足を抱えた。
衝撃を与えないようにゆっくりとゆっくりとストレッチャーに移す。
その間もずっと大石は『だいじょうぶ、だいじょうぶ』と雪乃にささやき続けた。
それがまるで魔法の呪文であるかのように、雪乃は少しずつ落ち着いてきた。
そして痛みに意識を失ってしまったかと思えるくらい静かになったころ、
ふと見ると静かな瞳で雪乃が大石を見ていた。

「しゅういちろう」
「はい」
「どこにもいかないでね」
「もちろん。ずっと傍にいますよ」

そう、ずっと。大石は心から思った。




つづく・・・
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