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2008’11.28・Fri

少しずつの幸せ 3

3話目です。
続きからどうぞv







 「顔色が随分よくなった。それに食欲があるからいい。回復も早い」
言うと大石は顔をほころばせた。
手術が終わってからも、大石は時間を作っては雪乃の様子を見にやって来ていた。
明るくくるくると動く目。朗らかで闊達。これがいつも雪乃が皆に見せている姿なのだろう。
けれど痛みにうめく中で見せた柔らかな部分。あれも雪乃自身。大石はそれが忘れられなかった。


麻酔を施している間もずっと、雪乃は大石の手を握っていた。
確かめるように時折目蓋を開いては、大石と目を合わせた。
「今まで余り病院にご縁がなかったんですね?」
おどけたのは雪乃を元気付ける為。けれど痛みにうめく雪乃には通じなかった。

「はい、もうじゅうねんはかかってません」
十年来かかってないと言うことは、本当に健康だったのだろう。
それが急に痛みに見舞われて、心の支えになるような家族はないとなると。

大石は自分の大切な家族を思い出して、雪乃の寂しさを慮った。
そうして思いあぐねていると、雪乃から声がかかった。

「しゅういちろう」
「何ですか?」
「ろびーのうえき」
「ロビーの・・・ああ幸福の木ね」
「かれそう」
「ああ、ちょっと手入れ悪いかな」
「しゅういちろう、しゅじゅつしてくれるの?」
「植木を枯らすような医者じゃ心配?こりゃまいったな」
ふざけて言うと、雪乃が痛みに顔を歪ませながらもうっすらと笑った。
ああ、苦しい中でもこんな笑顔を見せるなんて、なんて頑張り屋さんなんだろう。
大石はぐっと胸に迫るものを飲みこんで微笑み返した。

「ちがうの、あのね」
「?」
「あとでね、おみずと、ひりょう、えきたいの、あげて」
液体肥料?何がいいの?
熱帯魚には詳しいのだが、植物は余り分からない大石が聞き返そうとしたところで、
雪乃は麻酔が効いて眠ってしまった。


眠ってしまった雪乃の手から、大石の手を抜き出すのがまた一苦労だった。
ははん、としたり顔でにんまりする英二がようようその手を抜き取ってから、
手術が始まったのだった。






よく寝た、と雪乃は伸びをしようとしてわき腹の痛みにうめいた。
「ああ、まだ体を動かさない方がいい。麻酔が切れたばかりだから」
優しい声に横を見ると、穏やかな目が自分を見つめていた。

私、この人知ってる。
優しい声で励ましてくれた。
大丈夫、大丈夫って。
そうだ!お願いしたとおりに、ずっと傍にいてくれた。
知り合ったばかりの患者の為に。


「先生」
「はい」
「ずっと付いていてくれたんですか?」
「約束しましたからね」
言うと微笑みながら大石は雪乃の額に大きな手を当てた。
大きな手。この手を握りながらいつしか眠っている間に、どうやら手術も終わってしまったらしい。



やれやれ、麻酔が切れたら先生か。
『しゅういちろう』って呼ばれるのも結構胸に響いたんだけど。
大石はこっそり溜息をついた。
 
「先生」
「はい」
「痛いんです」
「わかりますよ。でも手術したから徐々に痛みは引いていきます。傷がふさがるにつれてね」
「先生」
「はい」
「先生は約束したらどんな患者さんにでもずっとそばにいてあげるんですか?」

その問いは自問していただけに大石は驚いた。
そう、普通なら大石はそんなことはしない。
英二が仕事があるからとちょっと出かけていった間、
雪乃を一人にしておくのが忍びなく、勤務が明けたというのに
大石は雪乃に付き添っていたのだった。

「う~ん。じゃあ、超過勤務手当ては貴女宛に請求すべきかな?」
ふざけて言うと、雪乃がふふふと笑ってから、イタタと顔をしかめた。
その頬をゆっくりと撫でると大石は言った。

「もう少し休みなさい。休むほどによくなりますよ」
その言葉にまるで魔法にかかったかのように、雪乃は眠りに落ちていった。
頬に大石の暖かい手を感じながら。

そう、痛いときもそうだった。まるでこの先生の声は魔法の呪文。
痛みも消えてなくなっていく。

「ふうん。本当に代わりに付いていてくれたんだ。忙しい大石せんせ」
「茶化すなよ、英二。自分が頼んでいったくせに」
「ごめんごめん。でも本当にありがと。
ゆきちゃん、意地っ張りなんだけど本当は寂しがり屋さんなんだよ」

そうみたいだな、と思った大石は英二が自分の顔を
ビックリしたような目で見ているのに気づいた。
ありゃ?俺今のを言葉に出して言ったのか?

「そうだよ。よく分かったね」
「まあな。人を見るのが商売だから」
「商売だけじゃないよ。じゃなきゃどうして大石が診察の日、子供が溢れるのさ」

その言葉は嘘ではなかった。
大石は子供とその母たちに絶大な信頼と人気を誇っていた。
上からモノを言うのではなく、
子供の目線になってくれる大石は、皆の好意と尊敬を集めていた。
本人は謙遜して否定するが、やっぱりオレの元相棒。
いい奴だからな。まあ、それは一番よく知ってるのがオレなんだけど。

ふふん、と英二は心の中で胸を張った。その様子に大石は少し頬を染めた。

「言うなよ。小児科医は少ないからどこもいっぱいなんだよ。それより彼女、家族は」
「交通事故でね、高校生の時に皆死んじゃったんだって。だから彼女ひとりぼっちなんだ」
「そういう事だったのか」

自分の手を握っていたほっそりとした手の感触を思い出しながら
大石は雪乃の孤独を思っていた。幼い子供でなくとも親を亡くしたときの悲しみは深い。
それが天涯孤独になってしまったということであれば、
悲しみに沈みこまないためにも肩を張って生きてきたのであろう。

「仕事の方は?」
雪乃の仕事はたしか英二の所属するプロダクションの副社長。
そして英二のマネージャーでもある。

「ん、今ボスに連絡した」
「ボスって社長さん?」
「そう。前から休めって言ってたからいい機会だってさ。
ゆっくり休めって言ってたよ。でもオレはしっかりその分働けって」

あはは、と大石は笑った。
同じ場所でテニスをしていたときから比べると随分二人の住む世界は変わってしまった。
英二は高校時代に街角でスカウトされてモデルとしてデビュー。
瞬く間に人気者になって、二十代後半からは運動神経の良さを見込まれて、
スポーツキャスターを勤める傍ら、鉄人レースなどに出たりする、
やっぱり人気タレントになっていた。

雪乃との付き合いは大石が知っているだけでも
彼此五、六年にはなるはずだ。
その間も一度も会ったことはなかったが、
いつも英二の口から雪乃の話を聞かされていた大石は、
雪乃が全くの他人だという気がしていなかった。
まさかこんな形で初対面になるとは思いも寄らなかったが。


ふうんと大石が頷くと、英二が嬉しそうに飛び跳ねている。
「じゃ、お願いしちゃぉ!」

え?自分の考えに浸って俺、聞いてなかったよ。
「何のことだ?英二」

「だからゆきちゃんの世話だよ。
別につきっきりでなくていいんだよ。
同じ病院で大石が時々顔を出してくれれば、それできっと安心するよ。
それにオレが付き添うと変なこと週刊誌に書かれて、反って彼女迷惑するだろ?」

確かにタレントとしてはまだ旬の英二がマネージャーにつきっきり。
美味しいネタに違いない。
病院の女性誌を読むとはなしに見出しを眺めている大石は納得した。
だが、英二に言われなくともそうするつもりであったことは言わなかった。



つづく・・・
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