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2008’11.29・Sat

少しずつの幸せ 4

4話目です。
続きからどうぞ・・・






男同士でそんなやりとりがなされたことは全く知りもしないで、
雪乃は数日のうちに痛みも引き、さっさと退院したいと言って大石を煩わせ始めた。

「どうしてだめなんです?」
「駄目です」
「私、自分の面倒なら自分でちゃんと見られます」
「おうちにご家族か誰かがいて、無茶をしないように診ていてくださるのならいいですけど」
「今までだって一人でやってきたんですよ。大丈夫。
それとも、一日でも長く患者を留め置くことで、先生は何かリベートでも貰ってるんですか?」

その言葉には温厚な大石もさすがに怒った。
「どうして人が心配していると素直にとれないんだ?」

痛みを堪え、回らない舌で自分のことを『しゅういちろう』と呼んだ
儚げな雪乃はどこへ行ったのか?

激昂する大石に今度は雪乃が驚いた。
どうしてこの人は赤の他人に自分のことをこんなに気にするんだろう。
確かに手術の時はお世話になってありがたかったし、イイヒトだと思ったし、うん・・・。
いいひと。
でもこの気持ちは違う。
患者がお医者さんに感謝の気持ちを抱いて、
それを厚意と勘違いするのはメロドラマでよくある設定。
あれ?これ逆かな?看護婦さんと患者さんかな?
もう、どっちでもいいわよ。
とにかく、お世話になったから、私、この人のこと意識してるだけなんだもん。
けれどそう思おうとすればするほど、言葉が止まらない。

「どうせ素直じゃありません!素直にしてると今生きてる世界では飲まれてしまうのよ」
「じゃあ、英二は?英二も嘘つき?」
言われて雪乃は口ごもった。
生き馬の目を抜くような世界でも、英二は変わらない。単純で素直で。
年甲斐もなく幼いところが人気の秘密だ。
英二は雪乃の友であり、弟であり、兄だ。
家族を亡くしてしまった雪乃の、ボスと並ぶ家族代わりと言ってもいい。


二人が睨み合ってると、そこにまあまあ、といって割って入ってきた人物。
「ボス」
雪乃の言葉にドアのほうを見ると、
そこには四十そこそこのショートカットのボーイッシュな女性が立っていた。
この人が英二の言っていたボスか、と
大石は感嘆しながら英二のプロダクションの社長を眺めた。

「大石先生、いつも英二がお世話になっているばかりか今度は雪乃まですみません。
ありがとうございます」

いえいえ。と言って大石は『仕事ですから』という言葉を飲み込んだ。
そう、仕事ばかりではない気持ちに、少しずつ気が付いてきていたから。
最初は確かに同情だった。それはどの患者さんにも抱く思い。
けれど不安を見せないように耐えて微笑む顔を見て、
大石はまさに文字通りノックアウトされたなと思っていた。

今まで女性と付き合ったことがないわけではない。
テニスをしていた頃は、他の人気のあった同輩程ではなかったが、
それなりに手紙を貰ったり、デートすることもあった。
しかし医者になってからは、どちらかというと自分の人格よりも
医者という地位に憧れる女性ばかりが身の周りにいて、
心を動かされることがなくなってきていた。
それが今回、雪乃に心を大きく揺さぶられて、
その動揺に大石は自分でも驚いていた。


「きっと誰かが面倒見ようとしても、反って気を使って容態を悪くしそうですから、
きちんと一人で休んでくださいね。それが退院を早くする条件ですから。
今社長さんにも聞いてもらっておきましょう。三週間、仕事は禁止です」

大石の独断に、雪乃は心でべーっと舌を出した。
けれど、大石が雪乃の性格見抜いてしまっているのには雪乃のみならず、
ボスと呼ばれている社長も驚いた。
睨み合う二人にはなんだか火花が散っているようだ。
英二が言うように、これはこれは。

「承知しました。その間は英二の面倒は私が見ますから大丈夫です」

ボスの言葉に雪乃は塞がった傷が開きそうなほど可笑しくなった。
尊敬しながらも実は英二はボスのことが苦手である。
だから普段は雪乃にべったりなのに。やれやれ、頑張れ!英二。

お大事にと、ボスが帰っていって、雪乃は傍らの大石に目を移した。
暇があれば大石は雪乃の面倒を見に立ち寄ってくれる。
いつしかそれを心待ちにするようになっていた。
でも、でもそんな人に頼るような心持、自分に許しちゃいけない。
だって、誰かに依存するようになって、
もしその人が急にいなくなってしまったらどうすればいいの?
今度こそ私は生きていけないかもしれない。
だから、だから、誰も好きにならない。


「はい、どうぞ」
人がいなくなったのを見計らって、大石がポケットから出したのは、
病院食が味気ないといって文句をつけた雪乃の為に持ってきたチョコレートキャンディ。
ちょっと柔かいからちゃんと歯磨きをしてくださいね、
というのを忘れないのがなんかやっぱりお医者さんだな。
ちょっと前まで睨み合っていたのも忘れて雪乃は微笑む。それを見て大石も微笑む。

明日には雪乃は退院する。
早く自分の患者でなくなって欲しい。
そうしたら。

大石はあれこれと考えながら、キャンディを頬張る雪乃を見て顔を綻ばせていた。



つづく・・・

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