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2008’12.02・Tue

少しずつの幸せ 6

6話目です。
つづきからどうぞ・・・








反した思いでいながらも、それから自然に二人の会う時間が増えていった。
最初はメールでやり取りを始め、そのうちに双方とも生活が不規則なので、
時間が少しでも合えば会って他愛のない会話をしたりした。
お互いが少しずつ大事な存在になっていっている頃だった。


ある時、大石がまた患者のことを話題にした。
医者なのでプライバシーに関わることを明かすことはないのだが、
誰かが良くなって退院した。そんなような明るい話題が大石は好きだった。
「雪乃が入院中に検診したあの双子の赤ちゃん」
「男の子と女の子の?」
「そう。未熟児だった子。ようやく保育器から出たんだ」
「よかった。もう大丈夫なのね」
「もう丸々と太って可愛いんだ。一度見に来る?」

嬉しそうな大石に、雪乃は嫌とはいえなかった。
雪乃の手術の後すぐに、未熟児の双子の出産があった。
その様子を、雪乃を元気付けるかのように大石は毎日報告に来ていたのだった。
大石に会えるのは楽しかったのだが、赤ちゃんの話は。

実は雪乃は赤ちゃんが苦手だった。
小児科医で子供が、赤ちゃんが大好きな大石とは正反対。
溢れそうな思いにブレーキをかける要因のひとつがこれであった。
けれどもう思いは溢れそうになってしまっていて、
見に来ますかとの誘いに、思わず雪乃は反射的に頷いてしまっていた。
 


その晩、大石は雪乃を連れて病棟を訪れていた。
大石の頭の中ではもう夢が出来上がっていた。
負けず嫌いで意地っ張りだけれど、いじらしくて健気な雪乃。
強いものには負けずに立ち向かい、
けれど弱いものにはとことん甘い雪乃が大石は好きになっていた。
いつしか自分の人生に欠かせない、いや一緒に歩いて欲しいと思うようになっていた。
けれどそれをまだ口に出して本人に告げることができず、
今日試すわけではないのだけれど、
自分が気に入っている赤ちゃんを見せると言ってしまった。


新生児室の前で白衣を着せられ、滅菌シャワーを浴びた雪乃を伴って入っていくと、
思いがけず見知った顔がそこにあった。

「あれ?大石先生。当直だったっけ?」
「いや、ちょっとこの双子が気になってね。手塚先生こそどうして新生児室に?」

友人の子供がいるからちょっと様子見にね、
と言う手塚先生といわれた白衣の女性を、
大石は自分の学生時代の友達の奥さんだと紹介した。
英二の友達で大石の友達ということは、
「もしかして、あの手塚国光の奥さん?」
言われてその女医はふふと笑った。
あ、いけない、呼び捨てにしちゃった。
ごめんなさい。
謝る雪乃に手塚先生はううん、と首を振った。

「今でも国光のことを〝あの〟と言ってくれて嬉しいわ。
そうそう、大石先生も今度来てね、コウキの誕生日。覚えてるでしょう?」
「来週の土曜ですね。覚えてますよ。もう5歳になるんだね」
「そう。だから国光の産休もそろそろお終いだって」
「なるほど。次のステップって訳だね」

話の行方が見えない雪乃が手持ち無沙汰にガラスの前で赤ん坊を見ているのに気づいて、
大石が慌てて手塚に挨拶した。

「奴によろしく」
「もちろん。そうだ!よかったら一緒にいらしてね、来週の土曜。お時間があったらぜひ!」
思いがけず誘われて雪乃はびっくりした。
自分までも?なんだか驚く成り行きに、英二も来るからと言われて約束までしてしまった。
子どものお誕生会。小さい子供が苦手な自分に何ができようか。
雪乃は内心頭を抱えた。



そんな雪乃を尻目に、爽やかに手塚を見送ると、
大石は雪乃の手を引いて新生児室に入っていった。
自分から誘うまでもなくサキに誘ってもらってラッキーだったと、
大石は機嫌がよかった。手塚の長男の誕生日には恐らくそれにかこつけて、
友人達の主だった面々が集まるだろう。
その中に雪乃を連れて行く。
何だか良い思い付きのようで大石は内心にんまりしていた。


「ほら、可愛いでしょう?がんばったね」
言うと大石は双子の男の子を抱っこして雪乃に差し出した。


その手を見て、雪乃は体温が一気に下がるのを感じた。
冷や汗が出る。十年余前、両親と一緒に亡くなった弟よりも小さい赤ちゃん。
心が痛む。分かっている。ぎこちなくてもただ抱けば良いだけだということは。
けれど体が動かない。心が前に出ない。
頭に巡るのは過去の思いばかり。

もしあの時、面倒見るのが嫌さに一緒に出かけてくれと言わずに
自分が一緒に家にいたら、まだ弟は生きていたかもしれない。
もし自分がやきもちを焼かずに、もし自分がわがままを言わずに・・・
もし・・もし・・・・  ・・・・。

大石の不思議そうな顔を見ては受け取らないわけにも行かず、
雪乃はごくりと唾を飲み込むと赤ん坊を受け取った。

なんとか抱きしめる。

けれど、幼い面影が脳裏によぎり出し、血の気が引いてきた。
もう一人の女の子の方に夢中な大石はそれに気づかない。
とにかく取り落とさないようにともっとしっかりと赤ん坊を抱きしめると、
窮屈になったのか赤ん坊がぐずり始めた。

その声に二人ははっとした。
女の子を寝台に下ろすと震える手から男の子を受け取った大石が
怪訝そうな顔で雪乃を見る。

「どうしたの?」
その声はどこか遠くで聞こえる。
ゆっくりと後退すると、雪乃の視線は宙をさまよう。
その目は虚ろで、顔は青ざめている。


「だめなのよ」
「え?」
「赤ちゃんも、小さい子もだめ。冷や汗が出るわ」
「どういうこと?」
「皆泣くの。私といると幸せじゃないって。子供って本能的に失格者を見分けるのよ」

そんなことはない、言おうとして大石は雪乃のただならぬ表情に驚いた。
冗談ではなく真剣な表情。悲しみに涙まで浮かんでいる。

「秀一郎は子供、好きよね」
「ああ、そうじゃなかったら小児科医にならない」
「子供、将来欲しいよね」
「自分の子?もちろんだけど」
わたし、ダメなの。言おうとしてまだそういう段階でもないことに、
プロポーズされているわけでもない自分に気づいて、雪乃は身を翻した。

大石もまた、今の雪乃の発言に少なからず動揺していた。
医者として一人前になるまではと最近まで結婚することなんて考えたこともなかった。
だが雪乃に出会った事をきっかけに、大石は真剣に家族を持つことを考えていた。
雪乃に合う回数が増えていくたびに、
大石は雪乃が自分によく似た赤ん坊を抱くところを想像するまでになっていた。
だが、その雪乃が子供が苦手とは。

家にいて専業主婦をしてくれなんて言わない。
自分が仕事に情熱を注ぐのと同じくらい、前向きに人生に取組む、同じスタンスの女性。
それが雪乃だと思った。
英二に聞くまでもなく、仕事ではあのボスの補佐、
つまり副社長を任されるほどのキャリアと信用を持ち、
それなりの収入もあり自活している。
完璧なように見える雪乃だが、何度か会ううちに分かった事がある。
それは嗜好の問題かもしれないのだが、雪乃には家事能力というものが殆どない。
英二に言わせると、オレより整理ベタ、らしいし。
料理もレンジでチンしかできない。
けれど、そこはお互いに何とでもカバーしようがある。
けれど、けれど、子供が嫌い、苦手と言われてしまうとは。


大石は気持ちが途端に萎えていくのを感じた。
理想の女性ではない。けれどその欠点があるからこそ尚、
雪乃のことを愛しく感じ始めていたというのに。
落胆する気持ちを持て余して、大石は虚しくぐずる赤ん坊をあやしていた。



つづく・・・

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