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2008’12.09・Tue

少しずつの幸せ 8

続きです。
8話目。

つづきからどうぞ・・・



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「コウキ。御挨拶しなさい」
サキに促されて今日の主役が頭を垂れる。
幼い子ながらよく躾けられている。
さすが主夫が手塚国光だけある。


プロを引退して今は充電期間を兼ねて、
医師である妻の代わりに家事と子育てを引き受けているという。
本当は五年程の予定の充電期間だったそうなのだが、
下にもう一人娘が生まれたことでもう一年その期間は延長になったという。
なんとも視野の広い夫婦だと雪乃は思った。


コウキと呼ばれた男の子は雪乃の堅苦しい挨拶におざなりに答えると、
大石には笑顔で応えた。さっと手を取ると、僕が案内するよと、
苦笑いする大石を連れてあっという間に行ってしまった。

「すまないな、息子が貴女のパートナーを連れて行ってしまって」
声を掛けられて驚いた。
手塚国光。
画面で見たことはあっても、本人を見たのは初めて。
普段英二と一緒に大物タレントといくらでも同席したことがあるのに、
やはり本人のもつオーラのせいだろうか?
妙に緊張してしまう、と雪乃は息を呑んだのだが、
次の瞬間輝くばかりに微笑まれて、印象が随分先入観と違うことに驚いた。


「大石が女性を連れてくるのは初めてだ。
ということは貴女のことをそれだけ真剣に考えてる。あれは真面目な男だから」
言われて雪乃は赤面した。
遠目からでも大石がコウキ君に手を引かれながらこちらを気にしているのが分かる。
手塚に言われなくても分かっている。
大石が自分をまっすぐに見てくれていること。
自分のことを過小評価しがちだけれど、
小さい子やお年寄りから絶大な人気を誇る大石先生の魅力を、
分からない人なんていない。だから悩んでるのに。
雪乃はこっそりと息をついた。



「はいはい。クニはあっちで皆さんのお相手をしててね。
雪乃さんはちょっと手伝ってもらってもいい?」
自分に何が手伝えるだろうかと思いつつ、雪乃はこれ幸いとサキについて台所に入った。
「あ、わたしの事は紛らわしいからサキでいいわよ」
「サキ先生?」
「もう、患者さんじゃないんだから、先生はなし、ね?」
サキの言葉に雪乃はようやく少し落ち着いた心地になった。
キッチンは機能的で清潔に保たれている。
これをいつもあの手塚が?思わず小首を傾げると、サキがコロコロと笑った。


「ね?綺麗にしてあるでしょう?
わたしだとここまでは出来ないわよ。才能あるでしょう?彼」
「ということは、ここの主は?」
「そう、国光よ。今限定でここは彼の城なのよ。
子供の面倒も全部彼。お陰でわたしは精一杯仕事に打ち込めるわ。
でもいずれ彼も立ち上がる時がくるから、そしたら全力でバックアップする」
きっぱりと言い切るサキの笑顔がとても眩しくて、雪乃は羨ましくなった。
夫婦のお互いの信頼感。
そしてお互いの道を認めている。
それがとても美しく思えて、雪乃は自分が惨めになってきた。


思わずぼんやりとして、サキが覗き込んで顔を見ているのに気づかなかった。
「悩んでる?」
言われて雪乃はどきりとした。
どう言えばいいのだろう?思いあぐねて口をパクパクしていると、サキが切り出した。
「大石君、今度ばかりは本気みたいね。
彼良い人でしょう?結構女の子にモテるのよ。
本人はあまり意識しないようにしてるみたいだけどね。
もう最近は会う度にあなたの話を聞かされるのよ。嫌でもどんな人か気になっちゃうわよね」
言われて雪乃はまたしても赤面した。本当にこの夫婦はずばり話をする。


「ああ、ごめんなさい。
あまりよく話を聞くものだから友達みたいな気分になっちゃってたの。
でも、ほんと。大石君真剣だから、軽い気持ちでつきあったりしないでね」

サキの言葉に雪乃はしっかりと頷いた。

「私もいい加減な気持じゃありません。だからこそ」
「だからこそ?」
「つらいんです」
ひと言が漏れると、後は堰を切るように零れた。
自分が子供が、特に小さい赤ん坊が苦手だということ。
それは事故で弟を亡くして以来の心の問題だということ。
大石にも、それこそ英二にも語ったことがなかったのに、
サキの前では雪乃は素直に話すことができた。
サキは黙って雪乃の話をただ聞いてくれた。
そして雪乃が話し終わってから、サキはポツリと言った。

「大石君との将来を考えてるのね。だから悩むのよ」
言われて雪乃はハッとしてサキの顔を見た。
「それが始めの一歩よ。
わたしと国光だって最初から上手く行ったわけじゃないから、ね?」

見守るように温かい瞳に、じんわりと勇気が沸き起こる。
そうだ。まだ自分は何も始めたわけじゃない。
始めるうちから悩んでやめてしまうなんて。
そんなの自分の主義に合わないじゃない。

雪乃はサキに話してよかったと思った。





つづく・・・
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